理工学研究科

生命科学専攻

田村 浩一郎

ショウジョウバエを用いた適応進化の遺伝機構

分子進化、分子系統、数理モデル、コンピュータ・シミュレーション、ショウジョウバエ、比較ゲノム解析

  • 田村 浩一郎

  • Kouitirou Tamura

研究概要 現テーマは“低温耐性”と“抗菌ペプチド”による環境適応の分析

 研究分野は進化遺伝学である。生命が誕生して35億年、生物が現在の姿を形成したのは、各生物種の設計図であるゲノムが時間の経過とともに変化してきたからだ。生物学的な進化とはどういうメカニズムで生じ、その方向はどのような作用で決定されるのか。生命誕生以来の各生物種におけるゲノムの変化を研究し、解き明かしていきたい。
 ゲノムの変化は、物質としてのDNAに突然変異が生じて遺伝情報が書きかえられる。その結果生じる形質の変化の中で特定の方向への変化が自然選択されることで進化が起こる。具体的に、どういう遺伝子に変化が生じてどんな形質がなぜ自然選択されたのかを明らかにするため、ショウジョウバエを使って研究を進めている。
 ショウジョウバエを使う理由は入手しやすいからだ。本学は東京都から系統維持事業を認められ、110種、3000系統以上を飼育している。またショウジョウバエは種類によって様々な場所に適応して生息しており、キャンパス内でも、種ごとの環境適応性の観察が可能である。
 現在、注目しているテーマは、アカショウジョウバエの低温耐性とクロショウジョウバエの抗菌ペプチドに関する研究だ。
 近年、温暖化による昆虫の北上現象が発生。元来、熱帯に生息するアカショウジョウバエが、今や気温の低い名古市内にも生息する。両地域のアカショウジョウバエのゲノムにおける違いを調査し、低温耐性の要因となる遺伝子を探り、その遺伝子がどのように低温耐性に関わっているのかなどについて分析している。
 抗菌ペプチドの研究では、種による抗菌ペプチド遺伝子の違いと微生物耐性への関連を解析している。ショウジョウバエは腐敗、発酵、カビが生えた果物やキノコなど、微生物を多く含むものを食物とするが、免疫として抗菌ペプチド(小さなタンパク質)を分泌し、バクテリアやカビから生体を守っている。つまり抗菌ペプチドは種の存続に直結しているわけで、進化の方向付け、自然選択との関連から興味深い。現在、カビに対する耐性の高いクロショウジョウバエの抗菌ペプチドについて研究している。
 研究には遺伝情報を担うDNAの塩基配列の変遷を種間や系統間で網羅的に比較する作業を伴う。配列の比較から自然選択がどう働いたかが推定できるし、配列間の変化量から種の分岐した時代も推定できる。解析にはコンピュータでの計算を必要とするため、専用ソフトウエアの開発も同時に進めている。

最近のトピックス

今後の展望 新たな抗菌ペプチド発見の可能性

 低温耐性の研究では、呼吸に関する遺伝子に着目している。温暖化のような環境変化でどのような遺伝子の発現が変化するのかについて研究することは、逆にそれを抑えることによって防除に役立つ可能性がある。また抗菌ペプチドの研究では、新たな抗菌ペプチドが見つかる可能性が出て来た。抗菌ペプチドは人体に無害な除菌剤などの製造に応用できる。その構造解析情報を生かして、機能を自由にデザインできる人工タンパク質を作り出す技術に結びつく可能性もある。以上のような点で産学公連携の可能性はあると思われる。

ショウジョウバエの種分化年代 ショウジョウバエの種分化年代
産業界や自治体の課題のうちで、適用可能な例 環境変化と増殖生物の予測・防除、新たな抗菌ペプチドの発見と除菌剤などへの利用等

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